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東京高等裁判所 昭和28年(う)3881号 判決

被告人 張明秀

〔抄 録〕

先ず検事の控訴趣意第一点について。

原審検事が、被告人は(中略)第二、次いで同日午後四時頃前記収税官吏等が警察官の援助のもとに前記屋内の捜索をした結果酒類密造の証拠物と認めて差押をなし同家前に運び出した物件中一斗壜一本及び一升壜一本を同所において破壊し、もつてこれを毀棄すると共に同官等の公務の執行を妨害した旨の公訴事実を掲げその罪名として公務執行妨害、刑法第九十五条第一項、器物毀棄同法第二百六十一条を記載したことは、本件起訴状に徴し明白であり(同状記載の公訴事実第二及び罪名欄の訴因第二の項参照)被告人が差押にかかる一斗壜及び一升壜各一本を破壊した所為は一面公務執行妨害に該当すると共に、他面器物毀棄に該当するものとして、すなわちこの両者は科刑上一罪の関係にあるものとして、起訴されたと認められるのである。

そうして被告人の右器物毀棄の所為について、該物件に対し差押を実施した収税官吏大蔵事務官柾川松司作成名義の告訴状によりこれを認めることができ、原審検事は、本件器物毀棄罪については、毀棄された物件の差押権利者である収税官吏柾川松司を被害者と目し、同人の告訴に基いて公訴を提起したものと解せられるのである。

そこで原審が右公訴事実について、被告人は(中略)引き続き同日午後四時頃に至り前記収税官吏等が警察官の援助を得て前記室内を捜索し、酒類密造の証拠物と認めて差押をし、同家の前に運び出して置いた被告人以外の者の所有にかかる諸物件中一斗壜及び一升壜各一本を、その所在につき破棄したりし、もつて前記収税官吏等の公務の執行を妨害した旨の事実(原判決摘示の犯罪事実のうち、原判決書二枚目裏第一行目以下に記載の事実)を認定し、被告人の所為に対し刑法第九十条第一項を適用して被告人を懲役三月に処したこと並びに判決理由末尾において、破壊された一斗壜及び一升壜共に被告人以外の者の所有に属すと認められるに拘らず、この所有者と目すべき者の告訴のない本件器物毀棄の公訴は、その提起が公訴提起の手続規定に違反する無効のものであるから、刑事訴訟法第三百三十八条第四号によりこの点の公訴はこれを棄却しなければならないが、器物毀棄の点は前段認定の公務執行妨害の犯罪とは、一所為数罪の関係ありとして起訴されたものであるから、この点につき主文において特に公訴棄却の言渡をしない旨判示したことは、まさに所論のとおりであり原審が本件器物毀棄の訴因と公務執行妨害のそれとを科刑上一罪の関係にあるものと認めたこと及び本件器物毀棄罪については、毀棄された物件の差押権利者たる収税官吏、柾川松司には告訴権がなく、同人の告訴は無効であると解したことは、原判文上自から明白である。

よつて先ず刑法第二百六十一条の罪の告訴権者について考えてみるに、同罪の被害者は一般的にはその物の所有権者であるから所有権者が告訴権を有することは疑を容れないが(明治四十五年五月二十七日大審院判決参照)自己の物と雖も差押を受け、物権を負担し又は賃貸したるものを損壊又は傷害したるときは、刑法第二百五十九条、第二百六十条、第二百六十一条の例によるべきことは、同法第二百六十二条の明定するところであり、同法条は物の所有権者以外の者の権利を保護するための例外的規定であつて、同法条の場合にはその権利者が告訴権者であると解すべきものである(昭和十四年二月七日大審院判決参照)右法条の趣意を推し及ぼすときは、その物が犯人以外の者の所有に属する場合においては、その所有権者のみならず、差押権利者物権取得者、賃借人等の権利者もまた毀棄罪の被害者として告訴権を有するものと解するのが相当である。

そこで本件において起訴状記載の一斗壜及び一升壜各一本が被告人の父張洛隠の所有に属すること、右物件は右張洛隠に対する酒税反則事件について高田税務署収税官吏大蔵事務官柾川松司が国税犯則取締法の規定により新潟地方裁判所高田支部裁判官三宅東一の許可を得て適法に差押をなした物であること、すなわち右収税官吏柾川松司は、該物件の所有権者ではないが、適法な差押権利者であることは記録上明白であるから、前叙説示に徴し、同人は該物件に対する刑法第二百六十一条の罪の被害者として告訴権を有するわけである。さすれば同人が被告人に対して提起した本件器物毀棄罪の告訴並びに該告訴に基く同罪の公訴提起の手続は有効であるというべく、原審が右柾川松司の告訴権を否定し、同人の告訴に基く同罪の公訴提起の手続を無効とする旨判断したのは、失当であるといわなければならない。

しこうして原審が本件公務執行妨害罪及び器物毀棄罪の各訴因のうち、前者のみを有罪と認定して被告人を懲役三月に処する旨の言渡をなし、後者については、特に判決主文において公訴棄却の言渡をなさず、判決理由の末尾にその旨の判断を示すに止まつていることは、前叙のごとくであるが、それはたまたま本件においてこの二個の訴因が科刑上一罪の関係にあるものと認められたことに由来するに過ぎず、元来この二個の訴因は相互に独立併存するのであるから、たとえ原判決のごとく、判決主文においては公務執行妨害罪の訴因のみについて一個の裁判が言い渡されていても、実質的は各個の訴因に対して裁判がなされたのと少しも変りはなく、換言すれば、他の訴因、すなわち判決理由において公訴棄却判断を示された器物毀棄の訴因についても、判決主文において公訴棄却の言渡がなされたと同視すべきものである。さすれば原審の右判断が失当であることは前段説示のとおりであるから、原審は本件器物毀棄罪の訴因についての公訴を不法に棄却した違法があるといわなければならない。

論旨は理由があり、原判決は、検事のその余の控訴趣意及び弁護人の控訴趣意に対する判断をまつまでもなく既にこの点において破棄を免がれない。

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